夕刻の紅い光がカーテン越しに感じられる。
窓辺に立つと、少しくらくらとした。暑さはそれ
程でもないのだが、カーテンからわずかに洩れる日
差しを受けるだけで、なにか不安な気持ちになって
くる。
「……何故日の光はダメなんでしょうか」
元々、身体が弱いほうではない。
以前は立ちくらみだってしなかったと思う。
以前?
どのくらい前だったかしら?
直射日光を受けないように、注意深くカーテンを
めくり、隙間からすばやく窓の外の洗濯物を引き寄
せた。
「お日様の匂い、ですわねぇ」
あやめは洗濯物をぎゅーっと抱きしめ、充分に乾
いていることを確認して、にこにことする。
もっとも、洗濯が終わった時に、もうあらかた霊
力で乾いていたのだが。
そろそろ日が暮れる。夕飯の支度もしなくては。
あやめは冷蔵庫を覗いた。
味噌汁は作れそうだが、他にめぼしい物は無い。
どうしよう?
「こんにちわー、あやめさーん」
と、扉の外で元気な声がした。知った声だ。
あやめは扉を開けて出迎えた。
「今日も暑いねー」
制服をパタパタとしながら入ってくるのは、あや
めの兄のひ孫にあたる、朝霧南である。
「いらっしゃい、南さん」
「……彼、まだ帰ってないの?」
「はい、そうですの」
「可愛いあやめさんを放って、まったくどこをほっ
つき歩いてるんだか……ほんと、しょうがない奴よ
ね」
ぷうぅっと南はふくれてみせた。
そんな、いつもの調子の南を見て、あやめは微笑
む。
「きっと、いろいろとお忙しいのですわ」
「さあ、どうだか……」
「そうやって、あの人のことを怒っている時に南さ
んって、なにか楽しそうにも見えますわ、時々」
「そんなことありませんっ!! ……あ、そんなこ
とよりコレ、差し入れよ」
南はあやめに、何か包みを差し出した。
「まあ、なんですの?」
言いながら、あやめが包みを開ける。
「お米と、あとおばあちゃんの作ったお惣菜。お奨
めなんだ……あ、あやめさんも食べる?」
「いえ、わたくしは結構ですけど……助かりました
わ。今日のお夕飯、少し材料が足りなくて困ってお
りましたの」
「ほんと? よかったー」
それから南は軽く家事を手伝った後、帰っていっ
た。
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