陽が落ちて、街からの喧騒も遠のきはじめる頃、
アパートの階段のほうから嬉しい気配が到来した。
 やっと。
 帰って来てくれた。
 彼が帰って来た。

「ただいまーっ。疲れたぁ」
「おかえりなさいませ。お食事の用意も出来ており
ますの」
 あやめは三つ指ついて出迎える。

「あやめさん、今日はね――」
 彼の言葉に耳を傾けながら、楽しいひととき。
 永遠には続かないけれど。
 だからこそ、大事にしたい時間だった。

 遠くない未来、何処かに去らなければならない。
 かすかにそう思いながら。

 あやめはふと口にした。
「そういえば、試験のほうはいかがでしたか?」
「あっ、いけねぇ!」
 慌てるようにして机に向かう彼を横目に、そうし
て夜は更けていく。

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 あやめの消滅予定日まであと43日。
 果たして……?

[7月14日 終わり]
 

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