コンコン!
 ふと、ノックの音がした。
 誰かが訪ねて来たらしい。誰だろう?
「ちわーっス、お届け物です」
 どうやら宅配屋のようだ。

「あらぁ、どういたしましょう……」
 あやめは困った。
『知らない人が来たら応対しないように。居留守を
使ってくれ』と日頃言われているが、大事なお届け
物だったら……?
「もしもーし、居ないんスか?」
 ノックはしつこく続いている。

「居ないんならお隣に……って、隣は空家じゃねー
かッ! オイコラ! 出てこんかい!」
 しかし、随分気が短い奴らしい。
 扉のほうから何かドカッと音がした。気が短いだ
けでなく乱暴だ。
 あやめは恐る恐る覗き窓から、扉の外を窺ってみ
た。

『あら……宅配屋さんにしては少し変ですわね?』
 外の男はゴツいアタッシュを提げた、スーツ姿だ
った。
 実は訪問セールスマンである。嘘をついてでも扉
を開けさせるのが、彼等のやりくちなのだが。
 あやめはその手口にだまされようとしていた。

頑張って無視する
声くらいかけてみる