「まずは洗い物をなんとかしないと」
 かっしゃんぱっしゃん……。
 磨きあげられていく食器類。
 彼が良く使う湯飲みは特に丁寧に。
 使い込んでいるので茶シブが落ちないのが、悩み
の種である。

 手を動かしながらも考える。
 彼と、かつての想い人と。
 なんだか記憶にある「彼」と、今の「彼」とは微
妙に違うような気がする。
 良くわからない。

 そういえば彼から、『あなたは幽霊なんだ』と言
われたけれど、本当だろうか。
 何故、わたくしは外を気ままに歩けないの?
 どうして、夜はあまり眠くならないのに、昼間は
ついうとうととしてしまうの?
 それも、良くわからなかった。

 わからないことを考えていると、なんだか悲しく
なってしまう。
 ぼーっとしやすいから、うまく考えがまとまらな
いのだろうか?
「でも……考えてばかりいても、仕方ありませんわ
ね」

 続いて洗濯をし、洗い上がったものを窓の外に干
すと、あやめは少し息抜きをすることにした。

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