幽霊のあやめさんとの暮らしにも慣れてきた。
 年頃の女性と同居なんて良くないのかも知れない
けど、俺はこの状況を受け入れている。
 ただ、あやめさんをこの先どうするのか……いつ
かは結論出さないとな。

 ずっと、このままではいられないと。
 俺は忘れかけていた。そいつに出会うまでは。

 ――御所颯姫。
 御所には霊能があるのだと、学校でも評判になっ
ていた。しかし、
「あなた、相変わらず悪霊と関わり合っているよう
ね。すぐ祓わせないと大変な事になるわよ」
 あやめさんは悪霊なんかじゃない!
 それに、どうしてこう、高慢な態度で迫ってくる
んだ?
「愚かな。霊の事を何も知らない素人に忠告をして
やっているというのに」
 忠告するのは勝手だが、従う義理はないぜ。

「言葉で言ってもわからないみたいね……」
 御所は、悪霊を祓うところを見せてやろうと言っ
た。霊の恐ろしさをその眼で見れば、考えも変わる
だろうと。
 俺は考えた。もしこいつの霊能が本物だったら。
 だが『悪霊を祓う』という行為は……霊を苦しみ
のうちに消滅させるということは、およそ成仏とは
結び付かない。あやめさんを危険にさらす訳にはい
かないんだ。
 御所の思惑を確かめる必要がある、そう感じた。
 

 いろいろなことがありながらも、あやめさんは俺
との暮らしを続けている。
 でもあやめさんは相変わらず俺のことを、俺のひ
いじーさんと思い込んでいるんだろうか?

 誤解はいつか、解かなくてはいけないな。
 そう思いながら過ごしていた。

 ――大嶋つむぎ。
 ある日、南の親友だという彼女に訊かれた。
「南のことが好きでしょう?」
 違うと思うな、南とはあやめさんを巡る仲間とい
うか、同志というか、とにかくそんな感じだ。

「でも、南とあなたが一緒にいるのを見かけて……
なんだかちょっと……気になって……」
 潤んだ眼で見つめられても困る。
 誤解なんだから。
 南は大嶋さんに事情を話していないらしい。この
際だから、俺はきちんと説明するべきだと思う。
 なんなら、あやめさんに会わせてもいい。

 だけど、それが大嶋さんからより一層の誤解を招
くこと、それだけの理由があることを、俺は知らな
かった。

 ――まぼろし月夜――

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