特別教室棟でぶらぶらとしていると、白衣を着た、
早足で歩く女生徒を見つけた。
坂上美雪。葉月の双子の妹で、姉とは違って頭が
いい。
ちなみに葉月の成績は俺とどっこいどっこいだが、
俺とは違って運動神経はいいし、皆に人気がある。
世の中不公平だよな。
「よう、坂上」
「ん? ……ああ、田中か」
美雪は足を止めてこちらを振り向き、そのまま頭
を動かして歩いてきた方向を一瞥する。
つられてそちらを向くと、化学室、化学準備室、
化学実験室と続いているはずの廊下は跡形も無く、
代わりに青空が広がっていた。
「……実験、か」
「そうだ」
「……いい天気、だな」
「比較的そうといえる」
「……急がなくても、いいのか?」
「大丈夫だ」
美雪はゆっくりと視線を俺が通ってきた廊下に移
す。
「いまや、職員室からここに来るまでにはそこの廊
下を通るしかないからな」
「おいおい、まさか、ここもなくしてしまおうなん
て考えてんじゃないだろうな」
「まさか。そんなことをしたら、誰が月曜までに化
学室を修理するのだ?」
「あ、そうか」
「それではお先に失礼する」
美雪はそう言い残すと立ち去ってしまった。
「え、おい、これ、月曜までに直るのか?」
俺は肩をすくめると、家路についたのだった。
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