なんだか寄り道して帰りたい気分だ。
 丘の上公園まで行ってみようか。

 辺りには子供連れと、なんか見覚えのある制服の
カップルとが数組いるだけだ。
 あー、つまらん。
 なにが楽しくて、男ひとりでこんなところをうろ
うろしなくちゃならねーんだ?
 ったく、来るんじゃなかったぜ……。
 帰ろ、帰ろ。

「たかちゃん!」
「ん? おう、なんだ理央か」
「なにしてんの?」
「……散歩。悪いか」

「べ、別に悪くないよぉ……なに怒ってるの?」

「怒ってねーよ」
「……やっぱり機嫌悪いしぃ……」

「そーいや、理央はなにやってんだ? こんなとこ
で」

「これこれ」
 理央は手に提げた、小さな弁当箱の包みを振って
みせた。
「弁当……お前一日何回食ってるんだ?」

「もーっ、ちーがーうー!」
「はいはい、判ってるって」

「とらきちにご飯をあげてたんだよ」
「……とらきち?」
 にゃーん。
 見れば理央の足元で、シマ模様の子猫が、ツナの
和え物をくちゃくちゃとやっていた。

「とってもいっぱい食べてくれたんだよぉ」
「そ、そうか……しかし勝手に名前まで付けちまっ
たのかよ」
「いいじゃない、ね〜?」
 にゃーん。
「…………」
「ほらー、とらちゃんも名前気に入ってるって」

 にゃーん、すりすり。
 理央の足に、子猫が頬擦りしている。
「随分懐いているみたいだな」
「うんっ、仲良しだよ」
「ふーん、仲良しねぇ……」

「あ、たかちゃん、ひょっとして」
「ん? どうした」

「やきもち、やいてるでしょ」
「んな訳あるかっ」

 子猫は、食べ終わるとひと声鳴いて、公園の茂み
の中へと消えていった。
「たかちゃん、一緒に帰ろっか」
「おう」

 理央と帰るのも久しぶりだ。
 道すがら、理央の入っている演劇部の話を聞きな
がら家に帰った。

次のページへ